足水のいわれ (遠賀地名研究所 元黒崎中学校長 中原三十四) |
(以下の記事は、前述の足水公民館10周年記念誌「たるみ」からの転載です) |
地名を表わす漢字も、またその呼び方も、その土地土地によって独特のものがあるように思われる。 1. タルミ 垂水 神戸市垂水区 2. タルミ 垂水 築上郡新吉富村大字垂水 3. タルミ 垂見 遠賀郡岡垣町垂見峠 4. タルミ 樽見谷 遠賀郡岡垣町大字原小字樽見谷 5. タレミズ 垂水 宮城県石巻市大字垂水 6. タルミズ 垂水 鹿児島県垂水市 7. タルミズ 樽水 京都府福知山市大字樽水 8. タルミズ 滴水 熊本県鹿本郡植木町大字滴水 さて、上上津役では、 9. タルミ 足水 1882年(明治15年)福岡県字小名調 タルミズ (足水) 1798年(寛政10年)筑前国続風土記付録 のように、両様の呼び名が記録され、今はタルミに定着するか? 漢字は地名の本義を使うのが第一であろうが、土地の民衆の心情から、独特文字を選択する場合もある。そのため前記のようにいろいろな変化を見せようになる。 ここだけが「足る」の字を使ったのは、ここの地形の特異性から生まれた、民衆の特別の願望をこめた為であるように思う。 元来この地方は遠賀郡の「上げ郷」地帯と呼ばれ、高地性の山村で日照りに弱く、用水に不足することが多かった。そこで大小の池塘を数多く築いたのである。それでも日照りの年にはよく雨乞いが行われ、千杷焚が山で、教楽院の祈祷が畑観音の滝壺で挙行されたという。 されば「満ち足りた水」・即ち「足水」というのは、人々の切なる願望の表現である。 ところで、無量寺観音の「足水の井」は、外一帯の水が枯れ果てても、ここだけは平常通りの水を湛えた泉である。この井があったから足水という地名が生まれたのではないか? 「日でりにもみちたるほどに観音の めぐみのいづみ足水の里」 遠い昔に無量寺というお寺があったが、いつしか廃寺となっていたのを、観音堂として再建したのも、この井があってのことであろう。明治の頃に境内が整えられ、本堂も立派な建物となり、多くの石仏が所狭しと建立された。それ等はみな時の人々の敬虔な浄財によるものと記録にある。此処が区民の信仰の場であるばかりでなく、区民や青年の集会の場でもあり、農事の寄り合いの場所でもあったという。 更にこの井水で洗えば、どんな大きなイボでも、コロリと落ちる功徳があるとて、今でも「イボ地蔵」とてお詣りが絶えないという。これもまた「足り水」であろうか。 |
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(以下の記事は、前述の足水公民館10周年記念誌「たるみ」からの転載です) |
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